岡山地方裁判所 昭和62年(行ウ)9号 判決 1988年12月20日
原告 センイ岡山協同組合
被告 児島税務署長
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が、原告の昭和五七年四月一日から同五八年三月三一日まで、同年四月一日から同五九年三月三一日まで及び同年四月一日から同六〇年三月三一日までの各事業年度の法人税につき、同年一二月二五日付をもってした各更正及び過少申告加算税の各賦課決定を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文第一、二項と同旨。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、紡績、織物及び染色整理の共同開発、共同受注を目的とする中小企業協同組合法に基づいて設立された協同組合である。
2 原告は、昭和五七年四月一日から同五八年三月三一日まで、同年四月一日から同五九年三月三一日まで及び同年四月一日から同六〇年三月三一日までの各事業年度(以下、それぞれ「昭和五八年三月期」、「昭和五九年三月期」及び「昭和六〇年三月期」といい、これらを総称して「係争年度」という。)の法人税について、別表一の「確定申告」欄記載のとおり、被告に確定申告(青色)をしたところ、被告は、昭和六〇年一二月二五日付で同表の「更正処分等」欄のとおり、各更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と本件賦課決定処分とを合わせて「本件処分」という。)をし、同月二六日にその通知書を原告に送達した。
3 そこで、原告は、昭和六一年二月二四日、本件処分につき被告に対して異議申立をしたところ、被告は同年五月二一日付でこれを棄却する旨の決定をし、同月二二日にその決定謄本を原告に送達した。原告は、更に、昭和六一年六月二三日、本件処分につき、国税不服審判所長に審査請求をしたが、国税不服審判所長は、昭和六二年五月一二日付でこれを棄却する旨の裁決をし、その裁決書謄本は同月一四日ころ原告に送達された。
4 しかし、本件処分は以下の理由で違法であるから、その取り消しを求める。
(一) 原告が、その雇用する訴外塩川芳明(以下「塩川」という。)に対し、昭和五八年三月期七一万六〇〇〇円、同五九年三月期七二万七〇〇〇円及び同六〇年三月期七九万八〇〇〇円の各賞与(以下「本件賞与」という。)をそれぞれ支給し、それぞれ係争年度の各損金の額に算入して確定申告したのに対して、被告は、塩川は原告の定款に定めた専務理事であり、法人税法施行令(以下「施行令」という。)七一条一項一号の規定により、使用人兼務役員にはならず、本件賞与は法人税法(以下「法」という。)三五条一項及び四項の規定による役員賞与であるので損金に算入できないとして、これを係争年度の各所得金額に加算して本件処分を行なった。
(二) しかしながら、法三五条五項を受けた同法施行令七一条一項一号にいうところの「専務理事」とは、その業務内容、地位等から実質的に解釈すべきである。即ち、その者が名義上のみの専務理事であって業務内容からみると実質上は使用人であること、その者に支給された給与は支払時期の点で他の使用人と同一時期で金額も使用人に比準していること、その者は専務理事として行動したり通常専務理事の担当すると考えられる事務を処理したりしたこともないこと、その者に支給された給料、賞与は使用人としての給与として支払われていること、役員としての業務は別の者が専ら行なっていたこと等が認められる場合は、当該専務理事は施行令や定款が予定しているような専務理事に該当するものとは認められず、施行令七一条一項一号の適用はないと解すべきである。
(三) 原告組合の定款上は一応専務理事の選任が定められている(本定款は中小企業協同組合のモデル定款をほぼそのまま踏襲したものであって、原告組合が専務理事を特に必要としたものではなかった。専務理事は定款上、代表権を有していない。)が、初代の専務理事稗田実は無報酬で、二代目の渡辺由一は丸進工業株式会社営業部長を兼務のまま被告組合に出向していた者である。
同人に対する給与は出向時間等を考慮して一七六万円前後でそれを一般会計が負担していたが、同人に原告組合が直接支給したのではなく右会社の好意に報いる補償として同社に支払ったのである。
同人は「一般部門」の業務を担当したが、その地位、職務内容は本来の意味の「専務理事」のそれといったものではなく、せいぜい「事務局長」程度に過ぎなかった。
その後、原告組合の事業運営の実情から庶務関係に格別の人材が必要でなくなり、渡辺は昭和五五年一二月末日をもって退任し、翌年一月からは塩川が一応「専務理事」の肩書で一般部門の庶務関係(とはいっても軽度の事務処理に過ぎない。)の仕事に当たることとなった。塩川は、昭和五五年一〇月、原告組合に採用され、「事業部」の倉庫、工場課長を勤めていて、今日まで一貫して専ら「事業部」の業務を担当していて、その本務のかたわらその合間に「一般部門」の庶務(雑務)を取り扱っていたものであり、昭和六〇年一〇月本件の問題が生じて専務理事の肩書がなくなったあとも「事業部」の課長職にあって、常時原告組合の使用人として職務に従事しているものである。もとより同人は定款が予定し、あるいは通常の協同組合の専務理事が執行する業務は一切行なったことはなく、組合の運営、企画、対外折衝の重要事項は全て理事長吉田晋作が専任するところであった(一般部門を統括していたのも理事長である。)。塩川に対し、「事業部」から従業員給与として昭和五八年三月期ないし六〇年三月期には年額三〇〇万円前後月給の形態で定期に支給されている。そして、このほか賞与として右各期に本件賞与も支給されたのであって支給額は夏季及び年末賞与とも月額給与の二箇月分に相当するものである。それらは使用人としての雇用契約に基づいて給与の昇給率及び賞与の支給を「事業部」の使用人に比準して、他の使用人と同様に毎月の給与と年二回の使用人に対する賞与として支給されたものである。塩川に対し、理事としての報酬、賞与が現実に支給されることは一度もなかった。
以上のような塩川の選任の経緯、業務内容、給与の実態等からみて塩川の実際の地位は使用人にすぎず、施行令七一条一項一号の専務理事には該当しない。
(四) したがって、本件賞与は損金に算入されるべきものである。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1ないし3の各事実は認める。
2 同4について
本件処分が違法であるとの主張は争う。
(一) 請求原因4(一)の事実は認める。
(二) 同(二)は争う。
(三) 同(三)の各事実中、塩川が専務理事としての業務運営に全く関与しておらず、専ら理事長吉田晋作が行なっていたとの点は否認し、その余は知らない。
(四) 同(四)は争う。
三 被告の主張
1 原告の係争年度の所得金額等の内訳及び本件処分の経過は別紙二記載のとおりである。
2 本件処分は、以下のとおり違法である。
(一) 原告組合の定款二七条は、「<1>理事のうち一人を理事長、一人を専務理事として、理事会において選任する。<2>専務理事は理事長を補佐して、本組合の業務を執行し、理事長に事故のあるときは、その職務を代理し、理事長が欠員のときはその職務を行う。」旨定めているところ、塩川は、係争年度において、右定款上の専務理事であった。
(二) 税務執行の斉一性の確保、納税者の税負担の公平の保障等の要請からして、使用人兼務役員とされない役員の範囲は当該役員の職務の実質的内容によって画するのではなく、法人の内部規程等に基づいてその地位が付与されたかどうかという明確性のある形式的基準によって判定すべきである。したがって、形式的にせよ、塩川が前記定款上の専務理事であった以上、実際の職務内容のいかんを問わず施行令七一条一項一号の「専務理事」に該当する。
(三) よって、法三五条一項、五項、施行令七一条一項一号により、本件賞与を損金に算入することは許されない。
四 被告の主張に対する認否
1 被告の主張1の事実は認める。
2 同2につき、本件処分が適法であるとの点は争う。
(一) 同(一)の事実につき、当該定款の規程があること、塩川が形式的には同定款上の専務理事に就任していたことは認める。
(二) 同(二)及び(三)は争う。
第三証拠関係<省略>
理由
一 請求原因1ないし3及び被告の主張1については、当事者間に争いがない。
二 そこで、本件賞与を損金に算入することが許されるかどうかについて検討する。
1 施行令七一条一項一号の「専務理事」の意義について
法二条一五号は、法人税法上の「役員」として、法人の取締役、監査役、理事、監事及び清算人をなんらの限定なしに列挙する一方、それ以外の者については実際に法人の経営に従事していること(実質的基準)を要求している。これは、取締役等については、本来法人の経営に参画すべきであるという職制上の地位に鑑み、実際に法人の経営に参画しているか否かを問わず、形式的基準で役員を定めようとしたものと解することができる。法三五条は右役員の概念を前提に、役員賞与の損金への不算入の原則(法三五条一項)及び使用人兼務役員における右原則の例外(同条二項、五項)を規定する一方で、同条五項において、社長、理事長等、右例外の認められない役員を列挙している。これは、理事長等については、本来法人の目的たる事業の遂行に専念すべき者であって、使用人を指揮監督する立場にある者として、使用人としての立場と両立しえない職制上の地位にあるといえるから、仮に使用人としての職務に属する仕事に従事したとしても、それは役員としての業務執行と認識すべきものであり、使用人としての地位を兼ねていると解すべきではないとしたものである。かかる趣旨からするなら、同条五項の委任を受けて施行令七一条一項一号に規定された「専務理事」も、右に準ずる職制上の地位を有する者を指すと解すべきであって、実際の職務内容いかんにかかわらず、形式的にその地位にあるものはこれに該当すると判断すべきである(こう解することは、被告も主張するように、税務執行の斉一性の確保という実質的観点からも是認することができる。)。
2 そこで、本件をみると、原告組合の定款二七条が、「<1>理事のうち一人を理事長、一人を専務理事として、理事会において選任する。<2>専務理事は理事長を補佐して、本組合の業務を執行し、理事長に事故のあったときは、その職務を代理し、理事長が欠員のときはその職務を行う。」旨定めていることは当事者間に争いがなく、右規定によれば、原告組合における専務理事が、右1の基準に合致することも明らかである。そして、塩川が、係争年度において、形式上にせよ右定款上の専務理事の地位にあったことは当事者間に争いがないから、その間、塩川は、施行令七一条一項一号に規定するところの「専務理事」であったと認めることができる。
3 以上によれば、法三五条一項、五項、施行令七一条一項一号により、本件賞与を損金に算入することは許されないというべきであり、これを前提としてなされた本件処分に違法な点はないことになる。
三 よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することにし、訴訟費用について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 梶本俊明 三島いく夫 登石郁朗)
別表一、二<省略>